北アルプス縦走6日間読売新道から赤牛岳に登れるのか?(2008年8月9〜14日)

今年の夏休みは南アルプスにするつもりだったが、 交通事情を聞き、今年も北アルプスにすることにした。 北アルプスと言えば、 昨年、水晶岳で怖くなってあきらめ、 帰りに水晶小屋近くのお花畑で 「よかったよ。それでよかったよ」 となぐさめられて涙した、 あの赤牛岳のあるところである。

この1年、富士山に3回も登って体力をつけ、 八つの阿弥陀岳ではコワイ思いをして、 それなりに経験を積んできた。 昨年は精神力の使い方を知らなかった。 今年はその経験もある。 ボクには赤牛岳に登る資格があるはずだ。

昨年、「北アルプスはイケメンだがキザでしゃくにさわる、 でも女性には人気がある、 悪女のような(でも男だ)いけすかない野郎だ」 と書いた。

そんな、みんなに人気のあるところが ヘンクツなボクには気の進まない理由なのだ。 なので赤牛岳に登ってリベンジを果たし、 そのいけすかない北アルプス野郎にこう言ってやるのだ。
「北アルプス、おまえはもう登られている」
ひでぶっ!

8月9日(土)1日目
初めて夜行バスというもので山に向かった。 言われている通り一睡もできずに新穂高についた。 登山届を出し、トイレを済ませ出発したのが6時30分。 計画では黒部五郎小舎までだが、 そんなん、この時間からでははなから無理である。 とはいえ、翌日のことを考えると、せめて三俣には行っておきたい。

わさび平で休憩し、 2回目の休憩は秩父沢で。 快晴の下、冷たい水を飲みながら、 「ここに帰ってきたのだ」 と心沸き立っていた。

ししうどヶ原あたりで3回目の休憩をしていると、 おばちゃんたちにこう声をかけられた。 「若いっていいね。そんな若いときから山登りしてたら、 ええ大人になるわ。きっといいお父さんになるよ」

2年前には女子高生のお父さんに間違えられたが、 2年たってようやく本来の独身にみられるようになったか。 わかいっつったって、もう○○歳なんだけどさ。 独身女性のみなさ〜ん、 聞いてました? ボク、イケメンでええお父さんになるらしいよ。

鏡平についたのは10時55分。 腹へったのでパン3個食べたった。 そして縦走時のお楽しみといえば、 山小屋ジュースである。 最初の山小屋ジュースは去年もここで飲んだ ネクターピーチだ。 うまいなこれ。

で、双六に向かって30分くらい歩いたところで、 雷さまのお出ましである。 進行方向でゴロゴロいっている。 仕方がないので、途中で雷さまを避けてくぼんだところで 休んでいた。 が、ほかの多くの登山者は素知らぬ顔で登ったり下ったりしていく。 ボクは怖いので結局1時間以上、停滞した。 笠ヶ岳の方に雷さまが移動したのを機に前進する。 花見平までくればここは晴れ。 雨具を脱いで双六に向かった

双六小屋には14時25分に着いた。 テントを申し込むと同時にネクターミックスを飲んだ。 うまかったが、もう少し冷えてればなあ。

夕食はわかめごはんにカレー曜日をかけたものと石狩汁。 夕食の終わった時間から雨と雷。 すごい雨のなか、 ペグが外れて、ずぶぬれになりながら直したりした。 気がついたときにはテントの中はすごい浸水で、 シュラフまで濡らしてしまった・・・。

シュラフを濡らしてしまってから シュラフカバーを出すボク・・・

8月10日(日)2日目
今日は黒部五郎小舎までだと近すぎる。 なんとしても太郎平まで行かなくては。 が、遠っ!
とにかく早出して考えることにする。 隣のテントが2時20分には周りを気にしない撤収作業である。 おかげで4時23分にはスタートできた。

時間を考えればよせばいいのに、巻き道コースではなく、 昨年ガスって展望のなかった双六岳に登る。 頂上手前で日の出。 今日もこの時間は快晴である。 5時17分に山頂に到着。 いい展望なので、ちょっと長居をしてしまった。 5時33分に出て、三俣蓮華岳には6時28分に着いた。 ここも展望のよいところ。

ここから先はボクには未踏の地。 黒部五郎小舎にはガスっていると迷いやすいところをぬけ、 下って下って7時55分に着いた。 時間的にさすがにここまでというわけにはいくまい。 とはいえ、ここを出てしまうと太郎平小屋まで行くしかなくなる。 が、このときにはそれほどのこととは思っていなかった。 ここではCCレモンを飲む。 下界ではうまいもんだが、 山小屋ではあんまし炭酸が好きではないようだ。 やっぱし果実系のがボクは山小屋では好きだな。

で、8時7分に出発。 地図上の水場のところまで行き、 9時13分冷たい水を飲みながら休憩。 あれに見えているのを登るのか・・・

黒部五郎岳まで必死の登り。 肩にザックを投げ捨て、黒部五郎岳の頂上にたったのが10時9分。 タッチの差でガスってしまったところ。 とはいえ、展望のあるところもある。 ついにここまで着たか。

少し長居をして、肩を出発したのが10時38分。 太郎平方向もすごい大下り。 下って下って1回ピークを越えて、 さらに下ったところが中俣乗越。 1時間30分かかるはずだが、 30分くらいで着いた。 えらく近いな、 と思ったところは当然中俣乗越ではなかった。 5万分の1のエアリアでは表れないピークがいくつもあったのだ。

足の裏の調子がよくないのでテーピングをした。 これが思いのほか、よく効いた。

ここらへんは自分がどこにいるのかわからなくて、 本当に辛かった。 人が休んでいるところでこっちもしんどかったので休憩。 どうやらここが中俣乗越だという。 11時55分。

待てよ。
ここが中俣乗越だとすると、 太郎平(薬師峠)のテント場まであと3時間5分もあるぞ・・・。 もうお昼だというのに。 昨日と同じように雷さまがやってきたらこの稜線上でまずい。

と思って、先を急ぐが、 朝4時23分に出たので、もう疲労感でいっぱいである。 赤木岳へは辛い登り。 ピーク付近は岩場になっており、 ダブルストックではしんどいところ。 変なところでストックをしまって乗り越える。 ここが12時55分ころ。

次のピークの北ノ俣岳にはもう最上級にしんどい思いをして 13時30分に到着。 ザックを投げ出し、座り込む。 先客の年配のグループに追いつく。 あとはほぼ下るだけ。 なんとか天気ももってくれたようだ。 年配のグループには 「早くいい人見つけて2人で登らないと」 と言われた。 ということは少なくとも女子高生のお父さんには見えてないってことだな。

太郎平まではほぼ下りと思ったが、 ちょっとした登りがもうしんどい。 太郎山のピークの手前で雷鳥を発見!
かわいいもんだな。

太郎山の山頂は登山道から1分くらい入ったところ。 スルーしようかと思ったが、 松濤明さんの「風雪のビバーク」に 「先鋭的な登山をしてもピークには登れ」 と書いてあったことを思い出し、 ザックを投げ出し、太郎山のピークに向かう。

太郎山のピークはガスって展望はなかった。 ただ、山頂標識のある三角点のところは、 たぶん標高が一番高い本当のピークではないと思う。 その手前の方が1mくらい高いように感じた。

疲労困憊で太郎平小屋についたのが14時59分。 小屋といったらジュースでしょう。 なにがあるか聞いたら、 いつものに加えて、 「これおいしいですよ」 とすすめられたのが、 富山地方の「トンボのフルーツミックス」。 よくある凍らせるタイプのものだったが、 これがうまかった。 地方ものということもあるが、 これが今山行のベストジュース! 本当においしかったよ。

テント場はもうすごい数がはられていた。 どうしようもないのでナナメったところにはった。 今日はとにかく疲れたよ。 もうやる気がうせた・・・。

8月11日(月)3日目
今日は普通に考えればスゴ乗越小屋までである。 さらに6時間以上先の五色ヶ原山荘までは無理でしょう。 とはいえ、早い時間にスゴ乗越小屋に着いてしまうと、 先に進んでしまうかもしれない、 ということで、遅い時間に出てスゴ乗越小屋までしかいかないようにする。

というわけで出発は6時7分。 薬師岳山荘まで一気に登り7時14分。 山小屋ジュースは「飲みごろ果実園ピーチ」。 ピーチってうまいな。 去年はオレンジ系が多かったが、 今年はピーチ系が好みだ。

昨年、初めて見てその大きさに驚いた薬師岳。 赤牛岳の次に登りたかったのがこの薬師岳である。 8時5分に山頂に着いた。 快晴の山頂からは大展望。 本当に気持ちがよかった。 そして目の前に赤牛岳。 本当に赤いんだなこれが。

今日はゆっくりしていていいので8時48分までウダウダした。 気分上々で山頂をあとにしたが、 北薬師岳まではちょっとコワかった。 細い稜線を行く。 ものすごく危険なことはないが、 足を滑らせたらアウトなところが続く。 こういうところは苦手というかキライである。

昨年だったらメゲてたところだが、 こういうときの精神力の使い方をこそ昨年学んだのだ。 地図にはなんにも書かれていないが、 結構コワイところだと思いますよ、ボクは。 すれ違い箇所も限られます。

北薬師岳までコースタイム30分のところ、 ほぼ1時間かかって9時44分に着いた。 ほっと一息。 休憩する。 これくらいのところは当たり前だから何にも書かれないのか。 北アルプスとはそういうところなのか。

この先も細い稜線に見えますが、 ここから先は特にコワイところはありません。 10時にスタートし、間山手前に11時3分。 11時15分にスタートし、スゴ乗越小屋には12時4分に着いた。 さすがに6時間先の五色ヶ原には行かんでしょう。 というわけで、ここでテントにする。 これくらいの行動時間がいいな。当たり前だけど。 山小屋ジュースは少ない中からCCレモン。

ガスっていていつ雨と雷がくるかと思ったが、 結局降られなかった。 長い時間横になって、疲れをとることに専念した。

8月12日(火)4日目
今日はいろいろ考え、4時33分にスタート。 見えている大きな2つのピークを越えればと思ったが、 ここがまたしても難所。 地図にはなんにも書かれていないし、 ここが難所だと書いたのは見たことがない。 読んでないだけという話もあるが。

スゴの頭のピーク手前から岩場になります。 ストックはしまっていきます。 なんとかスゴの頭を6時に越える。 見えてきた越中沢岳は見るからに厳しそうである。 登りに差しかかってから初めてのすれ違い。 聞くと、「ガイドブックには書かれていないけど、 ここは結構厳しいところだよ」と。 やっぱしですか・・・。

ほかの人はどうってことないかもしれないですが、 ボクにとっては厳しいところ。 精神力を使って進む。 ものすごく厳しいところはないですが、 続くのでしんどいです。 そして時間的にわかっているニセピークを登りきって、 なんどかポコンを越えたあと出てくるトラロープ。

見た瞬間、思わず声が出た。 「なんじゃこりゃ」

足がかりがなく、トラロープを1回上に引き上げただけでは 到底届きそうにないところ。 命を預けるには心配なトラロープですが、 信用する以外に越える方法はありません。 とにかく力をこめてトラロープを登ります。 が、無理だよ、こりゃ。 懸垂の要領で行くにも、トラロープと岩場の関係がよくないのだ。 最後どうしてもからだを上げられなさそうなのだ。

ホンマか?
これ、みんな越えて行ってるのか?

とにかく1回下ります。 日帰りだったら絶対にここで敗退である。 が、ここでは敗退といっても、どこまで戻るんだ・・・。 こんなエスケープするところもないところなんだから、 難しいって書いといてよ。 ホンマに泣きべそかいてました。

とはいえ、泣いてどうなるわけでもない。 もう一度よくこの岩場を見てみる。 トラロープが下がっているところは手がかりがとりにくいが、 右の方につかめそうな岩(高さは同じだけど)がある。 あれに行くしかない。

とはいえ、トラロープから離れている岩に行くということは、 つかみに行く瞬間は、 左手1本で自分の体重とザックの重さに耐えるということである。

力を入れてトラロープを2回くらい上がってから、 右の岩場へからだを振って なむさんで思い切って手を伸ばす。

つかんだ!
つかんだが、トラロープと岩が離れているため、 両手が大きく左右に分かれている状態である。 これはいかん!

どちらを信用するかといったら、 右手の岩のほうである。 トラロープは離せないので、トラロープの持つ位置を一瞬にして変えながら、 左手も右の岩場をつかみにいった。 一瞬のことである。

左手も岩をつかんだ。 こうなりゃあとは力任せにからだを引き上げる。 足をかけるなんて生やさしいものではなく、 からだを上にねじ込んでなんとか登りきった!

そしてもう一度こう思ったのだ。

ホンマか?

今までで一番しょっぱいクサリ場(しかもトラロープ)でした。 これ、なんにも書かれないですか?

このトラロープを登りきると、 もうコワイところはありません。 越中沢岳には7時30分に到着。 ヘロヘロである。 右の軍手の親指に穴があいていた。 が、ここであいたのなら本望である。

今日も快晴である。景色はよかった。 あそこを登り切った満足感と、 もうこんな思いは2度としたくないという思いと。 このまま室堂に抜けよう。 無事に帰ってナンボではないか。 なんにも書かれていないところでこんなんである。 注意と書かれている赤牛岳では先が思いやられる。

しかし、昨年の敗退の経験をしたもう1人のボクが こうささいたのだ。 「今回赤牛岳登らなかったら、もう2度と登れないよ」

そうだ、そうなのだ。 今、登ってきたところも自分の実力の範囲内ではないか。 今回敗退したら、本当に2度とチャンスは訪れないだろう。

そう決心すると、7時50分、五色ヶ原に向かってスタートした。 そうとなれば早く行って、 できれば12時の平ノ渡しの舟に乗りたい。 というわけで鳶山までコースタイム2時間10分のところを 1時間14分で駆け抜ける。 鳶山には9時4分。

下には五色ヶ原が見えている。 きれいな高原だ。 もっと人気が出ていい高原だと思う。 スゴ乗越側からは行きたくないけど。

6分休憩し、 五色ヶ原山荘に向かう。 9時30分山荘に到着。 平ノ小屋までの下りルートを訪ねると、 「毎日下りているから大丈夫」とのこと。 これで行くしかなくなりました。 が、その前にサンガリアのフルーツミックスジュース。 うん。こういうのうまいよ。

平ノ小屋までコースタイム2時間55分。 9時35分だから2時間25分しかない。 2時間なら間に合わないだろうが、 あと25分がものいって間に合うとふんだ。

下りなのであまり急ぎ過ぎないように進む。 予想通り、2時間を少し超えた11時40分に平ノ小屋に着いた。 ネクターフルーツミックスジュースを一気飲み。 なぜか250円で安いぞ。

12時の舟に乗る。

ここから奥黒部ヒュッテまでの2時間のルートは、 「上下の激しい梯子多数、転落要注意」 と書いてある。 書いてないところであれなんだから、 と注意して進む。

事前にネットで調べたとき、 ここは厳しいと書いてあるところと、 よく整備されていると書いてるところに分かれていた。

ボクの感想は 「よく整備されている」という方にのります。 桟道の木の橋もそれだけだったら超コワイが、 ありがたいことに、きちんと谷側に手すりがつけられている。 確かに垂直のハシゴも連続する。 ハシゴが苦手だったら、これほどコワイところはないと思う。 が、そうでなければ、 コワイところにはハシゴがかけられているのである。 これほど心強いものはないではないか。 トラロープ1本だったら・・・。

ただし、反対側から6時の舟を目指して ヘッデンで行くとコワイことになると思う。 ここを明るい時間に通行したか、 暗い時間に通行したかで感想が変わるような気がします。 反対側から行くときは、素直に10時の舟にすることをオススメします。

コワさは感じなかったとはいえ、 歩きすぎで、もうここではヘロヘロです。 肩が痛いし、足の裏ももう限界です。 途中、ガマンたまらず、靴下を脱いで、 新たにテーピングをした。 やはりこれがよく効いた。 でも、もう2度とこんなしんどい縦走はしない! と、心に決めた。 しんどいのは明日を最後にしよう。

奥黒部ヒュッテには14時22分に到着。 ピンクグレープフルーツジュースを飲む。 すっぱくて、このときにはちょうどよかった。

読売新道を下りてきた登山者の方に 道の様子を聞く。 「よく整備されているので問題ない」 とのことだ。

ただ、天候が明日までは持つが、 木曜日から雲って、金曜日以降は崩れそうだとのこと。

明日は早いので、ほかの人からかなり離れた位置に テントを張って休んだ。 いよいよ明日である。

8月13日(水)5日目
赤牛岳まで登りコースタイム7時間。 しかもそこから最悪でも水晶小屋まで、 テント担いでいる身としては、 雲の平か三俣山荘まで行ってテントにして、 初めてミッション成功なのである。 とはいえ、最悪の水晶小屋まででも10時間20分のコースタイム。 稜線伝いだから天気が崩れたら危ない。 なんとしても早い時間に通過したい。

そういうときに限って寝坊・・・。 3時30分には出ようと思っていたのに、 気がついたら3時5分である・・・。 わあー、自分のバカバカバカバカ!

などとやってる場合ではない。 お茶漬けをつくりつつ、 あわてて片付ける。 テントを撤収し、小屋にこっそり忍び込んでトイレをすませる。 水を飲みだめして、4.5リットルくんだ。 持ちすぎると重いが、 まったく水場のないところを10時間以上である。 しかも最悪の場合のビバークも考慮に入れての量である。 出発したのは3時58分。 なんとか4時前には出発できた。

さて、なぜ赤牛岳なのか。
その珍しい名前。
しかし、それもなっとくできる赤い山であること。
北アルプスの最奥と言われる水晶岳(黒岳)から さらに3時間近く先にあるという最奥中の最奥であること。
と説明はしてみるのですが、 それだけでは十分ではない気もする。

普通、赤牛岳には水晶岳か、 高天原山荘から温泉沢の頭に登ってから、 赤牛岳を通って読売新道を下る。 ほとんどの記録はそうなっている。 当然である。 wakkyさんは「勿論のぼりのタイムなんか考えたくもない」 と書いた。

であるからこそ、 アホアホ登山者としてはこれを登らなければならない。 赤牛岳に登ったというためには、 読売新道側から登らないと、 水晶岳からなら平行移動になってしまう。 とにかく読売新道から登って自慢するのだー!

読売新道には8分の1から8分の8までの標識だけが 進んだ距離をはかるものさしだという。 最初の「読売新道」の看板は4時35分に通過(8分の1ではない)。 途中10分休憩し、8分の1の標識は見逃して、 8分の2の標識を5時34分に通過。 8分の1じゃなくてよかったよ。

このあと10分休憩し、8分の3を6時18分に通過。 8分の4を6時55分に通過。 ここらあたりで上の稜線の方に出てきます。 チラチラと赤牛岳の山頂がのぞき始めます。 8分の5には7時18分に着き、ここで10分休憩。 ここを過ぎて少し行くと赤牛岳がはっきり見える。

この時間なら、もう大丈夫でしょう。 稜線を歩きながら、ついにあの山に、 こちら側から登るのか、 と思うと、昨年の経験もあって、 涙目になってくる。 8分の6を7時50分に通過。

しかし、赤牛岳はボクにそうした感傷を許さなかった。 8分の6を過ぎると岩場の登場。 遠目にはなだらかそうにみえるが、 コワイところを通過していく。

やっぱしね。 やっぱしそうなのだよ。 そんな簡単にいくわけがない。 感傷に浸りながら登れるほど甘い山でないのだ。

8分の7を8時20分に通過。 このあたりがしんどいところ。 途中7分休憩。

靴横幅1足分くらいのやせた稜線を 右側のハイマツをたよりにするしかない 5m〜10mくらいのところがおそらくコワサの核心。 肝を冷やしながら、できるだけ太いハイマツを探しながら通過する。 靴が滑らなければなんていうことはないが、 滑ったらサヨウナラ。

8分の8の標識は見のがした。

最後は岩場が続いたのでペースダウンしたものの、 ついに、
ついにあの赤牛岳山頂に9時18分に到着! 自分でもビックリの5時間20分での登頂である。 水晶小屋からの先客がいたので泣かずにはすんだ。 快晴の赤牛岳頂上。 ついに登ったのだ。

すべての方向に北アルプスの有名な山々。 なかでもここから眺め下ろす黒部湖方向は絶景だ。

水晶岳方向からは次から次へと登山者がやってくる。 地図に書いてある読売新道の 「登山者急増」のコメントは本当のようだ。

しかし、しかしである。 読売新道から登ってこそ赤牛岳に「登った」と言えるんだもん。

どうだい?
心が狭いだろう?(くまだまさしさん風に)

参考のために読売新道の時間をまとめておきます。
奥黒部ヒュッテ3時58分
8分の1=見逃し
(休憩10分)
8分の2=5時34分(1時間36分)
(休憩10分)
8分の3=6時18分(2時間20分)
8分の4=6時55分(2時間57分)
8分の5=7時18分(3時間20分)
(休憩10分)
8分の6=7時50分(3時間52分)
8分の7=8時20分(4時間22分)
(休憩7分)
8分の8=見逃し
山頂=9時18分(5時間20分)

というわけなので8分の4あたりが中間地点ですね。 ちなみに8分の4より下は木の根などがあって、 意外に時間と体力を奪われます。 トラロープのあるところもありますが、 登り方向でシビアなところはないと思いました。 たぶん技術的には下るほうが難しいと思います。 とはいえ、ボクがコワイのは山頂付近ですね。

昨日いっしょに舟に乗った単独の方、 2人が読売新道から登ってきた。 5時間くらいで登ってきたという。 ボクより年配なのに速っ! 1人は読売新道ピストンで平ノ小屋まで戻るという。 こんなところにくるのはすごい人が多いよ。

山頂では、 もうここには2度とくることはないだろう、 と意識しながら景色を楽しんだ。 そう思うと、つい長居をしてしまったようだ。 10時4分、名残惜しい山頂をあとにする。 登るのも厳しい山だが、 山頂をゆっくり楽しむことを(時間的に)許さない山でもある。

感傷的になれない理由はもう一つある。 水晶岳まで、まだ岩々があるのだ。

1時間ほど歩いて昼ごはん休憩。 山頂でフリーズドライのやつに水を入れてつくっておいたのだ。 実はもう水の残りが少ない。 水晶小屋までいけばなんとかなるとはいえ、 節約しないといけない。 そういうときに限って、 つくってしまったのが、ドライカレーだったことに気づいた。 のどがかわいてさらに水を減らしてしまう。

温泉沢の頭手前から岩場が始まる。 もう慎重に慎重に行くしかない。 水晶岳手前の岩々のピークはとっても無理である。 が、ありがたいことにそのピークは右側に巻いてくれた。

ふと気づくと、目の前に雷鳥の親子が。 なんでまたこんな岩々なところに。 緊張の中で少しの間、目を楽しませてくれた。

水晶岳への最後の登りもどうやって登るのか、 という感じに見えているが、 意外にもジグザグに足だけで登れた。 13時、水晶岳に到着。 もう赤牛岳はガスに隠れて姿を見せてくれなかった。

13時10分、水晶岳をあとにする。 歩きながら、なぜここでコワくなって昨年敗退したのか、 と考えていた。 そんなにコワイところとは思えない。 昨年の記録を見ても、 「部分的にはワリモ岳の方がコワイ」と書いているので、 ここが超コワイと思っていたわけではないようだ。 これが経験というものなのかと。

昨年、赤牛岳を目指しながら、 水晶岳でコワくなって敗退し、 帰りの道端でお花さんたちに 「よかったよ。それでよかったよ」 と、なぐさめられて涙した。

その場所に戻ってきた。 お花さんたちは今年も咲いていた。 ボクは「ありがとう」と心のなかでつぶやいた。 お花さんたちは、今年はボクに何も話かけてこなかった。 ただただ、お花さんたちは咲き誇っているだけだった。

それでもボクは満足だった。 お花さんたちはなぐさめを必要としていない人には、 声をかけないのだろう。 もう一度ボクはお花さんたちに「ありがとう」 とつぶやき、あとにした。

水晶小屋で出迎えてくれたのは、 またしても雷鳥の親子。 子どもの雷鳥が羽ばたいているのがかわいかった。 ジュースは「朝の健康果実オレンジミックス」。 雪渓で冷やしてあって、とてもうまかった。 オレンジジュース、やっぱしボク好きだな。

14時に水晶小屋をあとにして、 黒部源流の碑を通って三俣山荘には15時41分に着いた。 奥黒部ヒュッテからテントをかついで、 三俣のテント場まで歩きとおしたのだ。 ミッションコンプリート!

三俣山荘では見たことのない、 小さな「ストレート信州ぶどう100%」というジュースが 売っていたので、迷わず買った。 すごくおいしかったが、もっと量が欲しいよ。 缶小さすぎ。

山小屋で聞くと、やはり明日から天気はよくないようである。 1日待っても回復しそうにない。 明日帰ろう。 そう決めた。

でも、テントに戻ってから考え直した。 こんなところまで来ているのにもったいないではないか。 明日朝、鷲羽岳が見えているようなら、 野口五郎岳を目指そう。 ダメなら帰ろう。 そう決めて寝た。

8月14日(木)6日目
考える必要もないガスガスである。 ときおり雨がフライを叩く。 赤牛岳が見えない野口五郎岳に行ってもおもしろくない。 また今度にとっておこう。

5時24分に出発。 ときおり小雨も降る中、下山した。 途中、鏡平山荘で最後の山小屋ジュース、 サンキスト?のオレンジジュースで締めた。 新穂高にはちょうど12時についた。 もう肩が限界で、途中で水500ミリを捨てるほどだった。

ついに赤牛岳に、 しかも読売新道から登れた。 あの素晴らしい瞬間は何ものにも替えがたいものだった。 もう2度と赤牛岳の山頂に立つことはないだろう。 あんなコワイ思いやしんどい思いはもうしたくない。

そういう今でも、
一番登りたい山はどこかと言われれば、
赤牛岳、やっぱりあなたなのだ。

って、悪女のような(でも男だ)いけすかない野郎の 北アルプスにすっかり魅せられてるやん・・・


コワイレベル

新穂高〜双六小屋
特に難しいところはないが、石が多いので慎重に。2年目なら十分と思う。ただ、これを登るのは 体力的に相当しんどい。
双六小屋〜双六岳〜三俣蓮華岳
双六岳から双六小屋に下山する場合、ガスっているときは道迷いに要注意。岩というか石の道が わかりにくい。目印少ない。それ以外にコワイところはなし。
三俣蓮華岳〜黒部五郎小舎
コワイところはないですが、特にガスっているときは道迷いに注意。
黒部五郎小舎〜黒部五郎岳
黒部五郎岳への登りは急ですが、手を使うほどではありませんので大丈夫でしょう。
黒部五郎岳〜太郎平小屋
赤木岳ピーク付近の岩場が少し注意。2年目後半以降。あと黒部川方向の斜面にいくつか踏み跡が ありますが、それは沢登りの人のもの。そちらに踏み込まないように。
太郎平小屋〜薬師岳
コワイところはありません。ガスっているときに東南稜方向に迷い込まないこと。
薬師岳〜スゴ乗越小屋
コワイところは薬師岳〜北薬師岳。3年目以降の感じ。細い稜線なので気をつけて。それ以外に コワイところはなし。
スゴ乗越小屋〜五色ヶ原山荘
スゴの頭山頂付近から越中沢岳への途中までがシビアなところ。4年目以降の感じ。 結構続くのでメゲます。3年目以下の場合は、ベテランの人と一緒に行って、足の置き場、手の ホールドの位置などをみて行ってください。行けないことはないけど、ボクはここしんどいと思う。
五色ヶ原山荘〜平ノ小屋
特にコワイところはなし。平ノ小屋あたりで崩壊地があるので、そこだけ気をつけて。
平ノ渡し〜奥黒部ヒュッテ
人により評価のわかれるところ。明るい時間の通過ということに限定してですが、 ボクは3年目以降ならと思います。ハシゴがコワイかコワくないのか。それがすべてだと思います。
奥黒部ヒュッテ〜赤牛岳
コワサは4年目以降の感じですが、総合的に5年目以降でしょう。ボクがコワイのは山頂付近。 本文中の細い稜線を通過するところが核心だと思う。
赤牛岳〜水晶小屋
岩場の通過になれているかどうか。4年目以降の感じだと思います。水晶小屋から水晶岳往復よりも かなりレベルは上です。
水晶小屋〜三俣山荘
特にコワイところはありません。登山道ではない雪渓の上などに乗らないこと。
三俣山荘〜まき道ルート〜双六小屋〜新穂高
特に難しいところはないが、石が多いので慎重に。2年目なら十分と思います。


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